この恋が手遅れになる前に
彼の中で私はどういう存在なのだろう。一度体を重ねただけでも、本当に付き合ってるつもりなのだろうか。
一度落ち着いて話し合わないと……。
外出するために1階に下りると、エレベーターホールで政樹とばったり会った。
「久しぶりじゃん」
「おう、久しぶり」
同期でも次長という役職が付いた政樹と会うのは2ヶ月ぶりだろうか。
政樹は章吾さんの従兄弟だ。入社歴は年上の章吾さんの方が長い。けれど今では章吾さんの顧客以上に大きなプロジェクトの担当になって会社に来ることはほとんどない。
「あのさ奏美、章兄のことなんだけど……悪かったな……」
「なんで政樹が謝るの?」
「俺の父親が決めたことだから……」
章吾さんの結婚は政樹の父である社長の判断だ。そこに章吾さんの意思も、もちろん私の気持ちも考慮されていない。
「政樹が悪いわけじゃないよ。章吾さんも社長も、会社にとって大事な決断をした。それだけ」
本心からの言葉だ。けれど政樹は申し訳なさそうな顔をする。
「本当にごめん……」
「政樹が私に謝るとか気持ち悪いからやめて」
普段遠慮なく言い合うことが多い私たちの間に謝罪の言葉はないものだと思っていた。それほど政樹も章吾さんが結婚したことに驚いている。
章吾さんを「章兄」と呼んで慕っていた政樹は私と付き合い始めたことも喜んでくれた。いずれは親戚になるかも、なんて冗談を言ったことも今では黒歴史だ。
「私はもう吹っ切れたから」
「そうか……」
嘘だ。章吾さんを吹っ切ってなんかいない。でも今の私はそれどころじゃなくなった。
「涼平どう?」
「え?」
「本田涼平。奏美の担当の」