この恋が手遅れになる前に
「ああ、うん……優秀な子だよ」
突然涼平くんの名前を出されて慌てる。もしかして昨夜のことが政樹にバレたのかと思ってしまう。
「だろうな。本当は俺が直接指導したかったよ」
「そうなの?」
「学生のころから目をかけてたし。けど本人が奏美の下に付きたいって言うから」
「え?」
そんなこと初耳だ。
「何で私?」
「まあ理由は俺の口から言うことじゃないから今度本人から聞いて」
「え、なにそれ、気になるから教えてよ」
「だから本人から聞けって。あ、でもフラワーイベントが終わったら涼平は俺のプロジェクトに入れるからな」
「うん……」
それ以上話すことがないのか、結局政樹は涼平くんのことを何も教えてくれずにエレベーターに乗ってしまった。
涼平くんは配属部署を選べたはず。営業部じゃなくても、私が教育担当にならなくてもよかった。私が特別優秀な先輩社員というわけでもない。それなのに私を選んだのはどうしてだろう。
こんなにも涼平くんのことで動揺してしまう。「部長のことを忘れさせます」と彼が言ったことはある意味その通りになった。私の頭の中から章吾さんへの感情を押し出されたようだ。
「奏美さん」
会社から出てしばらく歩いた私に後ろから涼平くんが声をかけてきた。
「あれ、本田くんは今帰り?」
そう言うと不機嫌そうな顔になる。
「今は俺しかいませんよ。名前で呼んでくれるんですよね?」
拗ねた声に「はいはい涼平くん」と雑に言葉を出す。
まだここは会社に近い。誰に見られているかわからないのだ。
「奏美さんは気にしすぎです。バレてもいいじゃないですか」
「私は困るの」