この恋が手遅れになる前に
「…………」
「涼平くん?」
突然手を握られ外階段のドアまで引っ張られる。
「ちょっと! 放して!」
抗議の声も無視してドアの外に引かれると踊り場の壁に押し付けられた。
「涼平くん!」
ダン! と壁に手をついた涼平くんの腕と体に閉じ込められた。
まただ。またこうやってこの子は私を困惑させる。
「こんなことやめてよ」
私は真顔で見つめてくる涼平くんに冷たく言い放つ。
「政樹さんには嫉妬したくないんですよ」
「え?」
「奏美さん俺には笑ってくれなくなりました。さっき政樹さんには笑って話してるの見たら、なんかムカついて……」
子供のような言い方に笑う気も失せる。
「バカなこと言ってないで仕事して。誰か来たらこの状況どうするの?」
ここはエレベーターを待ちきれない社員が頻繁に使う階段。いつ誰が来てもおかしくない。
「私こういうの望んでないって言ったよ?」
涼平くんの目が泳ぐ。困っているのは私の方なのに。
「奏美さんに笑ってほしいです……俺にも笑顔を見せてほしい」
「今のところ無理かな。怒った顔や困った顔しか見せられない」
「すみません……」
涼平くんは壁から手を離して項垂れる。
「困らせて反省してます……どうしても焦っちゃって……」
こんなにも求められて幸せなのかもしれない。私だって章吾さんと付き合っていた時は今の涼平くんのように求めたこともある。
「私、ちゃんと涼平くんのこと考えてるよ? 子供みたいに嫉妬しなくてもいいよ」
「はい……」
照れたように顔を真っ赤にするから私まで口元が緩む。
「知ってると思うけど、政樹には友達以上の感情はないから。心配しないで」
涼平くんが溜め息をついた。