この恋が手遅れになる前に
そう思った瞬間、一気に理性が働いた。この子は年下で同じ会社で今は就業中なのだ。私がしっかりしないでどうする……。
「だめだってば!」
私は両手で涼平くんの顔を挟んで引き離した。
「むぐっ」
「仕事中!」
「ふぁい……」
ぱっと両手を離すと、怒られたのに涼平くんは笑う。
「俺、奏美さんに怒られるのも嫌いじゃないかもです」
「じゃあ涼平くんのやること全部叱ろうか?」
「それは勘弁してください。へこみます」
本当に落ち込んだ顔をするから私まで笑ってしまう。
「仕事に戻るよ」
「はい」
中に戻ろうと外階段のドアを開けると、目の前には章吾さんがいた。
「うわっ! ……お疲れ様です……」
外階段に出ようとしていたのだろう章吾さんがいたことに驚いて慌てて挨拶をした。
「お疲れ様」
私とその後ろの涼平くんを見て挨拶した章吾さんはそれ以上何も言わず私の横を抜けて階段を下りて行った。
二人きりでいたことをどう思っただろうか。
突然現れた章吾さんに驚いたけど、それは気まずいからじゃない。顔を合わせても前ほど動揺しないことに気がついた。私が新しい恋愛に目を向け始めたからだ。
章吾さんの登場に複雑な顔をして下を向く涼平くんの手を握った。きっと今章吾さんに嫉妬しているだろうこの子を少しでも安心させてあげられるように。
驚いた涼平くんは私の顔を見るとまた照れたように笑った。
「じゃあ、仕事は真剣にね」
「はい」
私たちは名残惜しそうに手を離して笑顔で別れた。