この恋が手遅れになる前に
「え、部長も行くんですか?」
「もともと俺の担当だしね」
「でも……」
私に引き継いだのだから撤去作業まで章吾さんが行く必要はない。それでも「奏美」と呼んで私が乗るのをずっと待っている。
諦めそうにないので仕方なく後部座席のドアを開けた。
「助手席じゃないの?」
「もう変に思われる行動はしません」
章吾さんは「へー」と面白いものでも見るかのようにバックミラーで私を窺う。
「もう奏美とも呼ばないでください。この間椎名さんに変に思われましたよ」
私の言葉に何も言い返さず車を発進させた。
「奏美って本田くんと付き合ってるの?」
何度言ってもこの人は私の呼び方を変えない。だから質問を無視した。
「俺と別れた後にすぐに年下と付き合うなんて、色々とすごいね」
「…………」
こんなことを言う章吾さんの真意がわからなくて黙る。まるで怒っているような言い方だったから。
「年下はやめた方がいいよ」
どの口が言うのだとバックミラー越しに章吾さんを睨む。章吾さんだって私より6歳も年上なのに。
「奥様は私より若いとお聞きしました。部長に言われても何も響きませんよ」
つい嫌みな口調を抑えられない。だって私にはそんな態度になってしまう理由があるのだ。
「奏美は甘えん坊だから、年下と付き合っても疲れるんじゃない?」
「っ……」
この人は私が言われたくないことを敢えて口にする。私の望み通りに甘えさせてくれた余裕のある大人の男は今でも私を惑わせる。
「本田くんだって甘えさせてくれますし……」
「そうかな? 奏美はきっと余裕ぶって我慢しちゃうと思うんだけど」
付き合ったのはたった1年だけど、章吾さんは私の全てを知っている。過去の私がどれほど章吾さんに溺れたのかを。