この恋が手遅れになる前に
「俺たちも帰りましょうか」
「うん……」
「奏美」
章吾さんの声に振り返ると私が言葉を発する前に「部長お疲れ様でした」と涼平くんが章吾さんに笑顔を向ける。
「僕は古川さんを家まで送りますので、お先に失礼します」
そう言って章吾さんの返事を待つことなく私の手を掴んだ。
「ちょっと!」
引っ張られるまま従業員用通路に連れていかれる。振り返ると章吾さんは困ったような、笑っているような複雑な顔を私達に向けていた。
駐車場に行くと涼平くんのだろう車の助手席に押し込まれるように乗せられる。運転席に勢いよく乗った涼平くんは満足そうな顔をしている。
「涼平くん、私強引なのは嫌だって言ったはずだけど」
「すみません。部長に連れていかれるのだけは嫌だったんで」
「私が大人しく連れていかれるとでも思ってるの?」
涼平くんは「俺に連れ込まれたじゃないですか」と呆れた顔をして車を発進させた。
「椎名さんから連絡もらわなかったら俺は後悔するところでした」
「本当に自分の仕事は大丈夫だったの?」
「はい。俺って優秀なので、緑化の方々も早く終わって喜んでくれましたよ」
自分で優秀だと言ってしまうあたり憎たらしい。確かに優秀なのは間違いないのだけれど。
「政樹といい椎名さんといい、先輩に可愛がられて良かったね」
「優秀な方には俺の優秀さを理解して更に育てようって思っていただけるので嬉しい限りです」
「はいはい」と呆れて窓の外を眺めた。
このまま涼平くんが来なかったらどうしていただろう。椎名さんは彼女さんのところに行くから送ってもらえなかったし、そうするとまた章吾さんの車に乗ってしまったかもしれない。これ以上章吾さんに近づいたら戻れない気がした。