この恋が手遅れになる前に

「中学に上がってから引っ越したんですけど、親にお願いしてその後もボランティアスタッフの申し込みをしてもらって参加してました」

イベントでは地元の住民もボランティアで参加してもらっている。涼平くんはその中に紛れていたのだ。

「そこで政樹さんと知り合いました。毎年参加してることを気づいてくれて」

「政樹も高校の時から会社に出入りしてたらしいしね」

父親の会社に入ることを決めたのは高校生の時だと聞いた。大人に混じって参加する涼平くんと年の近い政樹が知り合うのは自然なことなのだろう。

「俺も高校生になって政樹さんにバイトとして入ったらどうかって社長に話を通してくれて、緑化管理部で使ってもらってました。緑化は生花に触れることは少なかったですけど観葉植物のことも学べて、俺はこの分野で働こうって決めました」

「そうなんだ」

イベントが一人の男の子の人生に影響を与えて成長させたのなら嬉しい限りだ。こんな素直で一生懸命な子なら政樹も椎名さんも目をかけるはずだ。

「花の専門学校に進学するのも良いけど、企画の視野を広げるために美大に行きました。課題とバイトの両立は大変でしたよ」

「それじゃ私より先輩じゃん。ごめんね、涼平くんが新卒として入社してくるまで緑化にいることを知らなくて」

「まあバイトは営業部の方とはあまり関わりませんからね。でも俺は奏美さんを高校の時から知ってましたよ」

「え?」

「奏美さんと政樹さんがイベントの担当をしたとき、俺政樹さんのそばにいたんです」

全然気づかなかった。あの頃は入社したばかりで目の前の仕事にいっぱいいっぱいだったから。

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