この恋が手遅れになる前に

そんなこと分かっている。政樹のおかげで入社できたのだから涼平くん本人もそのつもりだろう。

「もう奏美が見ていなくても新人とは言えないくらい優秀だろ」

優秀と言った割には怒っていたくせにという言葉は飲み込んで「分かってる」と小さく返事をした。





しばらくたっても涼平くんはフロアに戻って来ない。珍しく政樹に怒られて落ち込んでいるのかもしれない。
ここは教育担当として慰めるべきだろうか。でも今の私と話したくはないだろうな。

私まで仕事に集中できなくてコーヒーでも飲もうかとカップを持って給湯室に向かった。
ドアの前に来たとき中から聞き覚えのある声が聞こえた。
涼平くんと、加藤さんだ。楽しそうな笑い声とカチャカチャとカップのぶつかる音がする。

「本当だ、これおいしいね」

「でしょ? 私のお気に入りの紅茶なの。落ち込んだ時はこれを飲むんだ」

「ごめんね、僕のせいで加藤さんまで怒られちゃって」

「大丈夫、私もいつも涼平くんに助けられてるし」

困ったな……なんか良い雰囲気だし、中に入り辛い。

カップを持ったままドアの前にいるのも不審なので一度フロアに戻って後で来ようとしたとき「ねえ、そろそろ桃花って呼んでよ」と加藤さんの声に足が止まる。

「え? 今更呼び辛いし……」

「私は涼平くんって呼んでるんだから、桃花って呼んでほしいな」

「そのうちね」

「えー」

加藤さんの可愛らしく拗ねる声が引っかかる。自分でも驚くほどその声音が不快だった。

今給湯室の二人がどんな顔をしているかは分からないけれど、会話だけ聞けば仲の良い関係だと分かる。
涼平くんには加藤さんのように可愛らしくて年が同じ女の子がお似合いだ。私のような仕事にしか興味がないつまらない女よりも、素直に甘えて守ってあげたくなるような子がそばにいるべきじゃないだろうか。

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