恋愛境界線
「確かに、言われたことは言われましたけど、若干意味合いが違ってますよ、それ」
恋人に向ける様な情熱的なものじゃなくて、なんていうか、執念? 自分を無視した私に対しての。
「大体、考えてもみて下さい。渚と付き合ってたら、こうして私が今こうして課長のマンションに居るわけないじゃないですか」
そう言うと、『なるほど。それもそうか』といった感じで、課長はすんなりと私の言葉を受け入れてくれた。
そして、なぜか一旦自分の部屋へと引き返した若宮課長は、再び戻ってくるなり、「今更だけど」と言って何かを持ってきた。
差し出されたのは、二つの鍵。
「課長、これって……」
泡まみれになっている手を慌てて水で洗い流し、課長の手からそれを受け取る。
「こっちがフロントのパネル用、それから、こっちがこの部屋用だから」
落として失くさないように、と言う課長の言葉に、黙ってコクコクと頷いた。