恋愛境界線
既に就業時間は過ぎていて、今日片付けるべき仕事も残っていないため、このまま二人で直帰することにした。
「管理責任を問われて訴えられてもおかしくないのに、蓮井さん最後まで優しかったですね……」
蓮井さんの事務所を出てからというもの、お互いに自然と黙り込んで歩いていたけれど、交差点に差し掛かり、赤信号で足を止められた所でようやく声を発した私に、課長が「そうだね」と頷く。
そこで再び会話は途切れたけれど、黙っていると、どうしてもさっきの蓮井さんのセリフが蘇ってくる。
『今度、また一緒に仕事をすることがあれば、その時は今回以上の物を作りましょう』
帰り際、事務所のドア先で見送ってくれた時に、静かに優しく、蓮井さんが私たちにそう言ってくれたのだ。
それを思い出した途端、人目があるにもかかわらず、どうしようもなく涙が零れ落ちた。
会社にいた時には、とにかく自分が悔しくて泣きそうになったけれど
今はもう、何に対して泣いているのか、どうしてこんなに涙が溢れてくるのか、自分でも判らない。
「──芹沢君」