恋愛境界線
気付けば信号は青に変わっていて、皆が横断歩道を渡り始めている。
歩き出した若宮課長が、その場に立ち尽くしている私を振り返り、名前を呼んでいるけれど、泣いている顔を見られたくなくて、私は俯いたまま小さな子供の様にボタボタと涙を零し続ける。
呆れてそのまま一人で先に行ってしまうだろうと思っていたのに、予想に反して若宮課長は引き返してきた。
「──芹沢君」
課長が、さっきよりも少しだけ低めのトーンで私の名前を口にする。
小学校の先生が『家に帰るまでが遠足です』と言う様に、『家に帰るまでが仕事だ』とか言い出しそうだ。
どこで余所の会社の人間が見てるか判らないのだからとか、そんな小言を口にしそうな雰囲気を感じ取った。
「ほっといて、下さい。課長は先に帰って下さい……っ」
「そうしたいのは山々だけど、こんな状態で一人でいたら、君、完全に不審者だよ?」
「いいです。こんな私なんて、警察に、捕まっちゃえばいいん、ですよ……っ」