恋愛境界線
「君って、本当に訳の判らない、可笑しなことばかり口走る子だね」
呆れ返った声の課長に、尚も言い返す。
「どうせっ、泣き顔だって、見苦しいんですから、ほっといて、下さいっ」
セリフの合間に何度も『ひっく』としゃくり上げてしまい、言葉が途切れ途切れになる。
幼い頃に泣きすぎて呼吸が苦しくなった時の様に、次第に呼吸をすることさえ苦しくなってきた。
ハァ、と課長が大きくため息を吐き出す音が聞こえたかと思うと、ふいに視界が蔭った。
それと同時に、若宮課長が普段つけているフレグランスの爽やかなシトラスの香りが鼻腔を掠める。
一瞬、抱きしめられたのかと錯覚しそうになったけれど、そうじゃない。
課長の両肘が私の肩に乗せられ、その先の手は、私の頭の後ろで組まれている状態で。
「……次の信号が青になるまでに、泣きやみなさい」
抱きしめられているのと大して変わらない距離感に、緊張から涙がぴたりと止んだ。