恋愛境界線
「とにかく、アイツは男だってことを、ちゃんと頭ン中に入れとけって言ってんの」
「……渚サイテイ。そんな渚とは、当分口も利きたくありません」
無感情にさよならを告げ、背を向けたまま軽く手を振り、私もマンションの中へと引き返す。
渚もさすがに今のは言い過ぎたと後悔しているのか、あるいは、私が本気で怒っていることを察したのか。
苛立った様に短く舌打ちが聞こえただけで、それ以上はいつもの様にしつこく付き纏ってくることはなかった。
若宮課長の部屋の前まで戻ってきたものの、暗澹たる思いでインターホンを押す。
ドアはすぐに開けられたけれど、迎え入れてくれる若宮課長の表情は、硬いというか渋いというか……。はっきり言って、微妙な空気が漂っている。
マンションを引き払ったことを、私が若宮課長に隠して居座り続けていたと思っているに違いなく、それを快く思っていない所為だ、きっと。
「あの、若宮課長、怒ってますよね……?でも、隠すつもりもなければ、騙すつもりもなかったんです、本当に!!」
「いや、ただ単に、私が勝手に勘違いしていただけで、別に怒ってはいない」
怒ってはいないと言う割に、その声は酷く冷淡だ。