恋愛境界線
慌てて課長から離れようとした途端、課長の背後からは、『チー』だか『ピュー』だか、いまいち判別の出来ない、少し高めのハムの鳴き声が微かに聞こえてきた。
それを掻き消す様に「わー!わー!」と声を上げながら、必死に課長にしがみつく。
「何なんだ君は。酔っ払っているのか?」
「違います!課長の後ろをGな生き物が通ったんですーっっ!!」
「Gな生き物……?」
「はい!イニシャルGの、あの気持ちの悪い生き物です」
本当は、イニシャルSの可愛らしい生き物だけど。いや、ハムという名前があるのだから、イニシャルはスナネズミのSではなく、ハムのHかな?
いやいやいや、今はそんなことを考えてる場合じゃないし。課長にとっては、GよりSの方が嫌いだという恐れも十分に有り得る。
「あぁ、ゴキブリか。本当に見たのか?私はここに越してきてから、今まで一度も見掛けたことはないが」
課長の胸元にがっちりと抱きついているせいで、課長の声は私の耳に響いて届いた。