恋愛境界線

「あの、すみません。支倉さんいらっしゃいますか?」


目の前を通り掛かった男性社員を呼び止め、姿の見当たらない支倉さんについて訊ねる。


「支倉?ちょっと待って。……あれ?さっきまで自分の席で電話してたんだけどなぁ」


男の人は、首を擦りながら支倉さんのデスクと思われる方向を見て呟き、その後、私の方へと向き直るなり、再び「あれ?」と不思議そうな声を洩らした。


「君って確か……若宮ンとこの子だよね。えーっと、芹沢さん、だっけ?」


「はい」と答えた後で、以前にもここで会ったことのある人だと気付いた。


胸元で抱きしめる様にクリアファイルを持っている私と違って、相手は何も持っていない。


そのお蔭で、ネックストラップに付いている社員証の名前を盗み見ることが出来た。


そうだ、奥田さんだ。


以前受けた印象同様に、相変わらずのチャラさ全開で「若宮は人使いが荒くて大変でしょー」と話し掛けてくる。


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