恋愛境界線
まだ頼んでもいないのに、奥田さんは「じゃあ、これを渡しとくから食事決定ね」と声を弾ませる。
しかも、さっきまでは『考えといてよ』だったのが、いつの間にか『決定』に変わっている。
支倉さんは、『ノリは軽いけど、悪い人じゃない』って言っていたけれど、この軽さと強引さは、十分に悪だと思う……!
「こーらっ、奥田くん。こんな所でナンパとか止めてよね。うちの部署の品位が下がるから」
私の背後から現れた支倉さんが、奥田さんからクリアファイルを奪い取るなり、奥田さんの腕を軽く叩いた。
「チャンスは自分で作るもの、だろ?」
「今は就業時間中で、ここは仕事をする所よ。そういうことは外でして」
冗談口調の奥田さんとは違って、そういう雰囲気を一切感じさせない支倉さんの態度に、さすがの奥田さんも肩を竦め、「はいはい、判りました」と自分のデスクに戻って行った。
こういう支倉さんは初めて見たけれど、相手に対して言い難いことでも臆せず発言する姿は、若宮課長と酷く似ていた。