恋愛境界線
側にいた同僚に「何かミスでもしたの?」と囁かれ、曖昧に返事をしながら課長の後を追う。
若宮課長はなぜか室内を出て、会議の時などに使用する多目的ルームへと移動した。
静かな室内に、パタンと、ドアの閉まる音が響く。
「──何か言いたいことは?」
私よりも課長の方がよっぽど何か言いたげに、鋭い口調で訊ねてきた。
その声色は、仕事でミスした時と同じ冷やかさを含んでいる。
「もしかして、私、何か仕事でミスしてしまいました……?」
「そうじゃない。私が訊きたいのは、君がうちに置いて行ったあのメモのことだ」
【引っ越し先が決まったので出て行きます。
今までお世話になりました。
若宮課長には本当に感謝しています。
有難うございました。】
文章にして僅か四行の簡潔なメモを、私は若宮課長のマンションを出る時に置いてきたのだ。
「いつ決まったのか知らないが、どうして前以って言わなかったんだ、君は」