恋愛境界線
それは、突然思い立ったからだけど、そうとは言えない。
「私としては、既に伝えた気でいたんですけど……。というか、本当に言ってませんでしたっけ?」
あくまで白を切るつもりで、課長には悟られない様に惚けた演技を続ける。
「それらしいことも、匂わせる様なことも、全く耳にした覚えはない。出張から戻ってみれば、コンシェルジュに、君から鍵を預かってると言われるし、部屋はもぬけの殻だし」
どんなに驚いたか判るか?と言われれば、すみませんと謝るほかない。
「確か、に礼儀知らずな行動だったかもしれませんが、起きたら課長は既に出張に立たれた後でしたし……。それに、会社に来ればこうして会えるので、改まったお礼はいつでも出来るかと思って……」
それでも、もう一度「すみません」と謝ると、ため息を吐かれた。
「私が言いたいのは、お礼がどうこういう話じゃない」
「……じゃあ、どういう話ですか?」
課長からしてみれば、厄介者の私がマンションを出て行ったことは、喜ばしい以外にないと思うのだけれど。