恋愛境界線
若宮課長は私の方をチラリと見ると、まるで何も見なかったかの様に、無言で私の斜め向かいの席の椅子を引いた。
見知らぬ間柄ならまだしも、しかも目が合った流れで、よりにもよってその席を選ぶなんて。
そりゃあ、真横に座られても困るし、正面だってそれなりに気まずさを感じるけれど。
でも、対角線上だなんて、あからさまに避けられているみたいで、何だか余計に気まずい。
今日交した会話は「お早うございます」と、「課長にお電話です」だけだけれど、それだって声を掛ける時はそれなりに緊張したし。
どうして私ばかり、こんな気まずい思いをしなきゃいけないんだろう。
いくら興味がなかったとはいえ、向こうだって私の下着姿を見てしまった以上、多少なりとも私に対して申し訳なさを感じるのが普通じゃないのだろうか?
そう思うと、涼しい顔をして支倉さんと同じ焼き魚定食を黙々と食べている課長が憎らしく思えてきた。
若宮課長の食べている魚が、今すぐ焼き魚から生魚になればいいのに。生魚といってもお刺身じゃなくて、ピチピチ跳ねる姿を想像してみる。
そんなことになったら、その涼しい顔もさすがにいくらかは取り乱すだろうし、私だって課長に声を掛けるキッカケくらいは掴めるのに。