恋愛境界線

突然の明るさに目が慣れないのか、その人物は目を眇めて周囲を見渡した。


「実は私のパスワード、ペットの名前と誕生日じゃないんです」


視界に私を捉えた奥田さんは、驚きに目を見開いたまま私を凝視している。


「なぜ、君がこんなことを……?」


「奥田さんが怪しいことには薄々気付いていたんですけど、証拠がなかったので」


申し訳ないのですが、実際に動いてくれるのを待ってましたと告げると、奥田さんは思いっきり眉を顰めた。


「俺がどうしたって?一体、何のことを言ってるのか、ちょっと判らないんだけど」


「パクトケース案を他社に流したのは、奥田さんですよね?」


若宮課長と支倉さんが、三年前のことをまだ気にしていて、今回の件もそれと結び付けているのは聞いて知っていた。


そして、犯人が誰なのか調べようとしているんじゃないかってことも、なんとなく。


以前、渚が若宮課長がシステム部の人と会っていたと言っていたから。


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