恋愛境界線

支倉さんにも、社内の誰にも見せるわけにはいかない。


そう思って、無我夢中でスマホに掴みかかった。


かわされた反動で躓きそうになって、それでもスマホを持った奥田さんの手に腕を伸ばす。


驚いた奥田さんが思いっきり腕を振り上げる。


その腕の動きが、まるでスローモーションの様に見えた。


次の瞬間、背後からは「危ないっ」という短い叫び声。それから、支倉さんの短い悲鳴も聞こえた気がした。


それらが私の耳に届いたのと、こめかみに衝撃を受けたのはほぼ同時だった。


「芹沢君……っ!」


衝撃を受けて痛みを感じるより先に、酷く切羽詰まった様子の若宮課長の声が耳に届く。


立ちくらみを起こした時の様に頭がぐらりと揺さぶられ、目の前が真っ暗になり、思わずその場に崩れ落ちた。


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