廓の華
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「君は来ると思っていたよ」


 竹藪の奥の屋敷に、ふたつの影があった。

 天井の高い畳の部屋で俺に刀を向けるのは蘇芳だ。さすが奉行所の役人。遊郭の客名簿を見て、あらゆる手を使って素性を調べたのだろう。

 やはり、この男から見て、俺は牡丹に相応しくないと判断されたらしい。

 当たり前だ。

 俺はあの子を殺そうとしているのだから。


「牡丹さんはどこに?」

「じきに来る。全てを捨てて」


 俺の元に幸せがあると信じて。

 蘇芳の手は震えていた。本気で刺そうとしているのではなく、信じたくない思いと彼女を守りたい願いが心の中でせめぎ合っているように見えた。

 だめだよ。そんな生半可じゃあ。

 君の目の前にいるのは生粋の人斬りなんだから。甘い君は、まだ俺の人の部分を信じようとしているんだね。自分の惚れた女が愛した男を殺す罪悪感で、押しつぶされそうになっているんだろう?

 あぁ。本当に、あの子は君のような人と結ばれればいいのに。

 俺みたいに全てを嘘で塗り固めた獣ではなく、本気で愛してくれる男と一緒に生きてくれればいいのに。

 命を奪う立場で、そんなことを思う資格もない。

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