廓の華
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「牡丹、ご指名だよ。例の二枚目」


 揚屋(あげや)に客が来ると、声がかけられる。久遠の目立つ外見は遊女の中で噂になっており、二枚目、と言うだけで伝わるほどであった。

 花の香りのする香油で髪をまとめてべっこう簪をさし、豪華なまな板帯をしめる姿は客の目を引く。


「見ろ、花魁道中だ」

「一度はお相手願いたいものだね」


 禿や新造の遊女、傘持ちの下男などを引き連れて歩くと、あらゆる場所から声が上がった。皆、高級遊女を買った男に興味津々だ。

 久遠さまは、質の良い黒の着物をまとって待っていた。顔を見るなり、いつもと同じく満面に涼しげな笑みをたたえる。


「綺麗だ。着飾った姿は、他の男に見せたくないな」


 今までは独占じみた台詞なんて言わなかったのに。今日は少し酔っている?

 彼のものになるのは買われた夜だけだとわかっていても、心がむず痒かった。

 身体は許しても心は許さない、それが信条だったのに、久遠さまの前では揺らぎそうになる。

 でも、今さら客に恋をする気はない。幸せになれないとわかっているから。


「こちらこそ、久遠さまをお待ちしておりました」

「そんなことを言われると、建前だとわかっていても浮かれそうになるよ」

「本心ですよ。さぁ、ご案内いたします」

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