廓の華


 騒がしい花街を抜けて、いつもの座敷へ入る。琴の音色や客たちの笑い声を遠くに、ふたりきりの静かな空間が心地よかった。


「毎回あんな派手な出迎えをするのは大変そうだ。疲れただろ?」

「いえ、そんなの考えもしません。大切なお客さまがいらっしゃったんですから、お出迎えするのは当然です」


 本音を言うと、着物は動きにくいし、足は疲れるし、店から揚屋まで往復するのは気が重い。だからと言って、大金を落としてくれる客の前で愚痴を言うわけにはいかない。


「気を遣わなくていい。俺が買った晩だけは、楽にして」


 久遠さまの態度も相変わらずだった。仕事として割り切って奉仕しようとしても、興味を示さないどころか接待は要らないとまで言い出す。

 それじゃあ、私たちはいったいどういう関係で同じ時間を過ごせばいいの?

 読めない男の真意をはかりかねていると、形の良い薄い唇が言葉を紡ぐ。


「その豪華な着物や装飾品は、自分で用意しているのか?」


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