廓の華
久遠さまはなににも執着しないような顔をして、たまに極上の口説き文句を口にする。
もちろん、私の夢は、借金を返済して早く遊郭を出ることだ。自分本位な金持ちに媚を売って高価な貢ぎ物をねだったこともある。
ただ、床入れすらしないこの人にだけは、なんだかちゃんと仕事を出来ていないような気がして頼めなかった。
奉仕するどころか甘やかされてばかり。
こんなにも見返りを求めない客は初めてだ。
「おいで」
手招きをされて、正座のままおずおずと近寄る。
すると、返事をする前に長い指がこちらへ伸びた。うなじに回った骨張った手が、結った髪からわずかに乱れた遅れ毛を軽く払う。
至近距離で視線が交わり、呼吸が止まった。
「牡丹は肌が白いな。首筋も綺麗だ。着物を仕立てるのは時間がかかるし、反物の方が使い勝手がいいか? いや、牡丹に似合う簪や紅を探すのも楽しそうだな」
肌に触れたわけではないのに、身体中が熱い。いつも畳一枚分離れた距離にいて、同じ布団に入っても必ず背を向ける彼が、手を伸ばせば届くところにいる。
切れ長の瞳が私だけを映して、私だけのことを考えている。それが嬉しかった。