廓の華

 その時、久遠さまが緩く口角を上げた。美しい笑みが視界に広がる。


「今なら、金持ちが貢ぐ気持ちがわかるな」

「え?」

「気に入った女を自分好みに仕立て上げるのは、この世で一番の娯楽かもしれない」


 一瞬で、思考が甘い感覚に支配された。

 照れもしない久遠さまは少年のように楽しそうで、純粋に思ったままを告げたのだろう。

 初めて、“気に入った女”だと口にした。

 久遠さまにとって私は特別で、通うに値する女なのだ。触れる気がなくても、抱きたいと思えなくても、彼の目に映る今だけは独占されている。

 他の人間が入る余地のないふたりだけの世界。

 たとえ、遊女と客という愛がない関係だとしても、彼に買われた夜だけは彼のもの。

 知らない感情が込み上げた。甘酸っぱくて、少し胸を締め付ける痛みを伴っている。身体中が甘い水飴にでもなったように、どろりと溶けてしまいそうだ。


『生涯愛すると決めた人以外を抱く気がないだけです』


 昼間の蘇芳さんの声がよみがえった。

 もしかして、久遠さまも誰かに恋をしているのか? すでに、妻がいるとか?

 いや、ひとりの女を愛し抜くと決めて手を出さないのなら、そもそも遊郭に来ないだろう。

 報われない恋を忘れたい? 心に決めた女性がいるの?


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