廓の華


 紺の着物を着て、腰に帯刀している彼は日課の巡回中らしい。顔見知りを見かけて挨拶をしてくれたのだろう。

 すると、蘇芳さんはまつ毛を伏せて告げた。


「あの客のことを考えていたんでしょう」

「あの客?」

「久遠という名の男ですよ」


 言い当てられて、どきりとした。思わず動揺して尋ねる。


「どうして名前を知っているの?」

「縹さんから聞いたんです。あの人は花街の情報通でもありますから。それに、ひと月前、久遠さんと話して……」

「えっ」


 無意識に声を上げていた。


「町で彼に会ったの?」

「ええ、まぁ」


 久遠さまは、まるで夢みたいな存在だと認識していた。蜃気楼のように実態がなく、蝶のごとくひらひらとどこかへ飛んでいく儚い印象を持っている。まるで亡霊の類だ。

 夜に会える彼しか知らない私は、昼間町を歩く情報が妙に新鮮で、本当に生きていたのか、とまで思うほどだった。

 花魁としては、私に見せる彼しか知る必要がないのだが、一度その話を聞くと、どうしても素性が気になって仕方なくなってしまう。

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