廓の華
「どういうお話をしたの? もしかして、ご友人?」
「まさか。友人なんて関係ではありませんよ。俺が、一方的に彼を知っていたので、つい声をかけてしまって……他愛ない世間話を数回交わしました」
そういえば、揚屋の一件で久遠さまは花街の人々の注目を浴びた。暴れる男をしずめた太刀筋をみて、同じく刀を握る奉行所の役人からすれば興味を惹く存在だったのかもしれない。
それにしても、なんだか羨ましい。
私は毎日彼が来ないか落ち着かずに待っているだけで、町に出て探しに行くのは許されないのに。
ふとそんな考えがよぎったのが信じられなかった。
私はもう、彼をひとりの客としては思えなくなっている。こんなにも執着するなんて、花魁として失格なのだろうか。
昼間、私の知らない女性と街を歩いていたとしたら。もう、遊郭に飽きてしまったのだとしたら。二度と会えないとしたら。
そう思うだけで心が苦しかった。
「久遠さん、京の都に行くとおっしゃっていましたよ」
「京へ?」
「はい。なんでも、急に決まった仕事だそうで。そうやって呼び寄せられるのが多いそうです」