廓の華
日の高さが、頭上から少し傾き始めた。今日もまた、仕事が始まる。
禿に言葉にはっとして、茶屋の女将を呼んだ。
「お勘定は、かすみやの給金から引くよう伝えてもらえますか」
すると、声をかけられた女将は明るく笑う。
「あぁ、お代なら先ほどいただいたよ。禿のお嬢ちゃんの分もね」
「え?」
「ほら、さっきの役人さん。知り合いなんだろう?茶菓子のついでに払っていったよ」
蘇芳さんが? まったく気づかなかった。
とても自然に奢られてしまった。彼は、花街のお客でもなんでもないのに。気を使ってくれたのだろうか。
「蘇芳さん、いい方ですね」
「えぇ。今度会ったらお礼を言わないと」
にこにことする禿にそう返し、かすみやへの帰路についた。
頭が花魁の自分へと切り替わっていく中、ぼんやりと暗いモヤがかかる。
そういえば、今日は島根屋の大旦那が来る日だった。妻がいる身でありながら遊郭に通い続ける色狂いで、私の長年の馴染み客。
こんなにも気持ちが沈むなんて、おかしい。
今まではお客をとって借金がわずかながらにでも減れば心は満たされていた。悲しいとも嫌だとも感じなかった。
なのに、久遠さまに出会ってからは、全ての客を彼と比べてしまう。
そこまで考えて、はっと気づく。
あぁ、わかった。
私は久遠さまを愛してしまったから、彼以外の男には体を許したくないのだ。