廓の華
「今日の指名は断ろう。そんな顔で出られても困る。ゆっくり休みなさい」
番頭の言葉に甘え、自室に戻った。
島根屋の大旦那は、違う遊女が接待するのだろう。悪いことをした。大旦那は羽振りは良いが性格が悪く、執着心、独占欲、それらの醜い感情が強い。
都合の良いように思い込む癖も激しく、自慢話を始めたら止まらないうえに、触り方も身の毛がよだつほど気持ち悪いし、しつこくて散々だ。
指名した私がいないことに腹を立てて機嫌が悪いかもしれない。
ただ、私の馴染み客の中で唯一身請けをする意思をほのめかしているのが彼だった。
あぁ。あんな男に一生を捧げるくらいなら、ひとりで逃げ出したい。いっそのこと、自ら命を絶つ方が簡単とさえ思える。
「……だめね。そんなことをしたら、久遠さまに会えなくなる……」
ぽつりと、そんな独り言がこぼれて空気に溶けた。借金を返して花街を出る夢が絶たれることよりも、久遠さまと会えなくなるほうがつらかった。
私は完全に彼に惹かれている。もう、認めざるを得ない。
この恋は報われないのに。
私は布団を被り、遊郭に来て初めて静かに泣いた。