廓の華


 やはり、彼は優しい。一緒にいるだけで心が休まる。こちらを気づかってくれる客なんて今までいなかった。

 久遠さまは、他の誰とも違う。代わりなんていない。

 いつものように並んで座り、酒を酌み交わした。


「長い間来れなくてすまない。急な仕事が入ったんだ」

「京の都に行っていたんですよね。お疲れ様でした」


 すると、切れ長の瞳が驚いたように見開かれる。


「なぜ、それを知っているんだ?」

「蘇芳さんから聞いたんです。遊郭の門の近くにある奉行所の役人さん。お知り合いなんですよね?」

「……あぁ、あの青年か」


 彼は、ぽつりと呟く。記憶を辿って、顔を思い出したらしい。


「俺のことなにか言っていた?」

「ええと、こちらが声をかけただけで友人ではない、とか」

「ははっ。たしかに。……他には?」

「他愛のない会話を交わしただけ、とおっしゃっていました」


 久遠さまは「ふぅん」と相槌を打った。お互いが深く口にしないところをみると、ふたりの間に、これといって何かがあったわけではなさそうだ。

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