廓の華
「あの男、なにぶん腕が立つから雇ったものの、家内に色目を使うどころか私の牡丹にまで手を出すとは、許せん」
「奥さまに、色目を?」
「あいつは家内が知り合いだと連れてきたんだ。口利きで入ったも同然だ」
おそらく、久遠さまの性格上、主人の妻に手を出そうなんて考えないはずだ。しかし、この大旦那は被害妄想をする上に思い込みが激しい。
もともと気に入らない男だと思っていた使用人の部屋から、自分のお気に入りの花魁からの手紙を見つけて、怒りが沸点をゆうに超えたらしい。
そこまで考えて、心臓がヒヤリと冷たくなる。
「その、使用人の男性は?」
「あいつは解雇してやったよ。どこに遊郭へ通う金を隠していたのか知らないが、ウチよりも給金が良い働き口はそうそうない。二度とここへは来ないだろう」
目の前が真っ暗になった。この地獄での唯一の希望が、一瞬にして消えて無くなる。
大旦那に身請けされることよりも、久遠さまと会えなくなる方がよっぽど辛かった。
肩を抱く大旦那は、小太りでむくんだ指を私の頬にはわせる。
「お前が私以外の客をとることを咎めはしないよ。文を送ったのも、金払いのいい男を繋ぎ止めようとしたからだろう? だが、もうそんな媚びを売る必要もない。お前の全てを私が買ってやる」