廓の華

 ぞくりと震えが走った。

 久遠さまを金払いのいい客だなんて思ったことはない。文を送ったのは、ただ純粋に私を忘れて欲しくなかったからだ。

 だが、大旦那の前では言えない。おそらく、口にした時点で怒り狂うか、戯言だと言って本気にしない。むしろ、本気ではない男の毒牙にかかった哀れな女だと同情されるかもしれない。

 ごめんなさい、久遠さま。私が文を渡したばかりに、こんなことになってしまった。職を解雇されて、恨んでいるかしら。今まで通りの生活が出来なくなって、二度と顔も見せないつもり?


「安心しろ、牡丹。あの男が来れないように、揚屋の番頭に手を回してある。あいつがここを訪れても、門前払いを食らうだろう。万が一、お前に危害が及んだら困るからな」


 聞こえのいいセリフだが、嬉しくもなんともなかった。

 むしろ、職を失った腹いせにと傷つけてくれても良かった。嫌われてしまったとしても、もう一度彼の顔を見れるなら構わない。いっそ、消えない傷をつけてほしい。

 でも、きっと優しい彼はそんな真似はしない。いつも穏やかで、決して怒らず笑っている。

 彼が私に会いに来ることはない。

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