廓の華
悲しくて寂しくて、どうしようもなかった。
私と久遠さまを引き裂いた大旦那に身請けされるなんて信じたくない。きっと、未来には遊郭を出ても似たような地獄しか待っていないのだ。
そのとき強引に口づけをされそうになり、思わず大旦那を突き飛ばした。気持ちが悪くて、嫌悪感でいっぱいになる。
愛した人以外には触れて欲しくない。久遠さまの長く骨張った綺麗な手とは似ても似つかないむくんだ指で触らないで。唇の紅を落としていいのはあの人だけ。
しかし、倒れて目を見開く大旦那を見て我に返った。花魁としてあるまじき行為だ。しかも、相手は自分を身請けすると言った客である。
感情の起伏が激しい男の逆鱗に触れたかと思ったが、今日の大旦那は違った。恐怖で震える私の手を取り、余裕の笑みを浮かべる。
「今は良い。私は寛大な男だから、多少の反抗は許してやろう。じきにふたりだけで過ごすことになる。お前が誰のものか、じっくり教え込んでやる」
血の気が引いて記憶が遠のく。
どうせ二番目の女にしかなれないのに、どうして全てを捧げないといけないの?
やっと愛する人に出会えたはずなのに。奇跡みたいな幸せを掴めると信じていた。
その後の記憶は曖昧だ。大旦那に体を許しても、思考も感情も全て凍りついていた。事を終えて男が帰り、自室の布団で眠れない夜を過ごす。
朝日が昇っても、心は闇に囚われたままだった。