廓の華
この宝物は大旦那の用意した屋敷に持っていけない。なによりも心の支えになるだろうが、あの男に見つかってしまったら、それこそ怒り狂って何をされるかわからない。
どうせ手放すのなら自分の手で燃やしたい。
行燈のろうそくに手紙を近づける。しかし、チリチリと燃え移りそうになる炎が目に映った瞬間、無意識に火を消していた。
自室が真っ暗になり、自然と涙が頬を伝う。
だめだ。やっぱり私は弱い。綺麗な思い出にすがりついて、なかったことにできないでいる。苦しくて仕方がないのに、久遠さまの気配を消すのが怖い。
久遠さまは私の唯一の拠り所なんだ。目の前にいなくても、二度と会えなくても、忘れるなんてできない。
とめどなく溢れる涙を着物の袖で拭いたとき、皆が仕事で出払っているはずの廊下から、こちらに近づく足音が聞こえてきた。
部屋の前で止まり、か細い声がかかる。
「牡丹さま、いらっしゃいますか」
綺麗な声だ。少し低い。新入りの遊女だろうか。
「食事ならいらないわ。ごめんなさい、今ひとりになりたい気分なの」
「部屋にこもっていると伺いました。お顔を見せていただけませんか」
身請け前に体調を崩さないか、心配しているらしい。