廓の華
返事も聞かず、背後で襖が開く音がした。
ひとりになりたいと言っているのに、失礼な新入りだ。泣いている姿も見せたくない。
「ひとりにして、と言ったのが聞こえなかったの? 放っておいて……」
少々苛立って振り返ると、そこには豪華な青い着物をまとった姿が見えた。真っ暗な部屋に、廊下から漏れた光が影を映しだす。
綺麗なおしろいに紅を引いた姿は、容姿端麗だ。品がありながらも艶っぽい表情に、ドキリと胸が鳴る。
こんな上玉、かすみやにいたかしら?
そんな考えが頭をよぎったとき、目の前で薄い唇が弧を描いた。その微笑みが、記憶の中の男と重なる。
違和感に気がついたときには、疑念が確信に変わった。
女性にしてはがっしりとした体つきに、開いた襟から覗く喉仏、髪型もひとつに束ねた総髪をかんざしで留めただけだ。
「参ったよ。門からの出入りを禁じられたみたいでさ」
それは、聞き慣れた低く甘い声。少し掠れた響きに心が震える。ずっと、ずっと会いたくて、その願いは叶わないと諦めていた。
しかし、私が絶望の淵にいても、彼は変わらない涼しげな笑みを満面にたたえて目の前に現れる。
「久遠、さま」
震えた声でその名を呼ぶ。
骨張った男らしい指がかんざしを抜くと、艶のある黒髪がさらりと肩に落ちる。
世界から隠れるように襖を閉めた彼は、色香を漂わせてあごを軽く引いた。漆黒の瞳が私の姿をとらえる。
「君の全てを奪いに来た」