廓の華

 ばさりと豪華な着物を脱いだ久遠さまは、慣れない重さから解放されて息を吐いた。長襦袢姿は明らかに男だ。

 男物の着替えは懐に忍ばせていたようだが、億劫(おっくう)なのか、楽な格好のままでいた。彼はいつもきっちり着物を着ているゆえに、無防備な姿は目に毒だ。どこを見ていいかわからない。

 人々が店に出払っている間に井戸で水をくみ、手ぬぐいを渡した。おしろいと紅を落とすと、眉目秀麗な男らしい顔が現れる。

 久遠さまだ。久遠さまが目の前にいる。手を伸ばせば届く距離で息をしている。夢じゃない。気の遠くなるほど長い間会っていなかった気分だ。


「もう会えないと思っていました」


 そう告げると、優しく抱き寄せられた。薄い布の向こうから心地よい心音が伝わり、気持ちが落ち着く。

 先ほどまで感じていた彼の危うい色気はなりを潜め、その代わりにとろけそうになるほど甘い空気がふたりを包む。


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