廓の華
蘇芳と呼ばれた男は、声の方へ振り向いた。赤茶の髪をひとつに縛った、目鼻立ちのはっきりとした美丈夫で、体格が良い。ほどよく鍛え上げられた男らしい体つきが簡易な着物の上からでもわかる。
縹さんの顔を見るなり軽く眉を寄せたが、隣にいる私に気づくと目を見開く。
「牡丹さん。この時間に店先に出るなんて珍しいですね」
「縹さんがいらしたから。蘇芳さんと話すのも久しぶりね」
駆け足でやってきた彼は、遊郭の門の近くにある奉行所の役人だ。花街を取り締まり、治安を守ってくれている。
かすみやで揉め事が起こるたびに駆けつけて来るので、いつしか顔見知りとなった。
役人の仕事は、酔った客を沈めたり足抜けする遊女を捕まえたり、多岐にわたるのだ。
「縹さんも、蘇芳さんと知り合いだったのね」
「あぁ。奉行所にもよく出入りしてるからな。この町の住人は血の気が多いんだ」
からりと笑う縹さんに、蘇芳さんは尋ねる。
「ところで、いったいなんの話をしていたんです? 揉め事でも?」
「いやぁ、牡丹の馴染み客がお前そっくりのカタブツらしくてな。容姿を持て余して女遊びもしないお前なら、同類の男の気持ちがわかるだろうと思ってよ」
「は……っ?」