Fw: R-17〜もう一度、人生をやり直したいですか?〜

夫は既に、幸せになる道を見つけていた。

きっとあとは、私に別れをどう切り出すかだけだったのだと思うと、悔しさで目頭が熱くなる。

キャリーケースに必要なものだけを詰めて、クローゼットの一番奥に仕舞い込んでいた一枚の紙を取り出した。

名前の欄に“浅倉梨沙(あさくらりさ)”と、私の名前だけが書かれた離婚届の用紙。

いつか出す日が来るとは思っていたけれど、それがまさか今日になるなんて、昨日の私は夢にも思っていなかっただろう。


ふと、用紙を握る左手を見て思わず眉間にシワが寄る。
お互いもう冷めているとは思っていても、何故か、どうしても今まで外す事が出来なかった結婚指輪。

それが意味する事に気付かないふりをして、私は勢いよく指輪を外して乱暴にコートのポケットへと突っ込んだ。


もう二度と使う事のないダブルベッドの上に、二つ折りにした離婚届を置いて、静かに寝室のドアを閉める。


離婚届さえ置いておけば、会話する必要ももうないだろう。
残った私の私物は、申し訳ないけれど慰謝料を請求する代わりに捨ててもらおうと、手帳を一枚破いて走り書きを残した。


───衝動的、と言われれば……そうなのかもしれない。だけど、ここまできて屈辱的な結末を迎えるのも私のプライドが許さない。




エレベーターに乗ってチラリと見た時計の時刻は、深夜2時。


外に出てキャリーケースを引きながら、暫く歩いてからふと空を見上げた。
冬の空気は肌を刺すように冷たく、夜空はネオンが煌めく都会の空でも澄んで見えた。


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