皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
『何故、ふたりとも来れないと?』
毎年城下町の警備を行っているが、ひとり残れば問題ないはずだ。さすがにどちらも来ない遠征は、隊の中に緩みが出る。
『実は――今年、ロルシエ家に招待状が届いたようでして――』
そこで俺は全てを察知した。
カルムの説明はしばらく続いたが、あとのことは全く頭に入ってこなかった。
アイリスだ――。
レイニーは彼女を舞踏会へ参加させぬよう、気を配っているというわけか。
蜂蜜色にキラキラと輝く波打つ髪。エメラルドの宝石よりも美しく強い瞳。可憐な容姿の割には、負けん気が強く素直ではない。しかし、まっすぐな物言いと花開くような笑顔は誰をも惹きつける――
今でも俺の心の真ん中に住み続ける、愛しい記憶が艶やかに色づく――
『ルイナード、見て見て。今年も園庭の花が美しいわね。私も庭師さんを手伝ってこようかしら』
彼女が落ち着いて過ごしていたのは、寝ているときか、花を愛でるときくらいだっただろうか。
コロコロ変わる表情が愛おしくて、いつも意識が離せなかった。
『落ち着きないですって? 相変わらず、ひどい人ね。いいわよ、ひとりで花のお世話するから』
花に夢中になると、彼女が俺の存在を忘れてしまうのが面白くなかった。
喧嘩することもしばしばあったが、それでも俺には彼女しか見えなくて⋯⋯
少しだけ素直になると、ものすごく嬉しそうな顔をしてくれる――
『⋯⋯私も大好きよ、ルイナード。ずっとあなたと一緒にいたい』
しかし、そんな美しく献身的な彼女を捨てたのは、他でもない俺だ。
彼女の最も大切な人の命を奪い、絶望の渦の中にいる彼女の心をさらに滅多刺しにした。