皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】


「なにか飲むか?」


どうにか澄まし顔で彼の対面に腰を落ち着けると、読書の手を止めてルイナードが気遣う。

さらりと揺れる前髪の隙間から、傷を隠すテープが覗く。怪我の回復の方は良好だと聞いている。


「⋯⋯なら、温かいものを」

「待ってろ」


読んでいた本を伏せ、涼しげな表情を携えたまま廊下側の扉に備わる呼び鈴を鳴らしに行ってしまった。

すらりとした黒のバスローブの立ち姿からは、なんとなく今までよりも一線引いたような冷たい距離を感じる。

まるで『話すことはない』と突き離されているかのようだ。

でも、私だって、せっかくここまで来たのに、何も話さずに帰るわけにはいかない。

先走りそうな気持ちをごまかすように、淡いオレンジ色の灯りに包まれる室内をぐるりと見渡した。


私室よりもこじんまりとした空間だ。城下街での質素な生活に慣れているせいか、かえってこっちのほうが落ち着くかも。

圧倒的な存在感を放つキングサイズのベッドはちょっと目のやりどころに、困るけれども⋯⋯。

低位置に揺れるオレンジ色のランプはとても風情があって。左手にある私の部屋から続くバルコニーは見慣れた風景が広がる。

そして、そこに面した壁には、真っ白な大きな出窓がある。誘われるように席を立ち上がっていた。

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