皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

出窓の隅っこ。サファイアブルーの花瓶。

その中には、鮮やかな青のブルースターに。可憐なピンク、白、黄色のガーベラが無造作に差し込まれている。

所狭しと並んでいるところは勿体ないが、どれも華やかに咲き誇っている。


ルイナードが部屋に花を持ち込むだなんて、珍しい。


そう思って、透き通ったブルーの花瓶を持ち上げて、底を覗きこみ、茎の切り口の形を探る。


もしかして、この花、私の―――


じわじわと湧き上がる予感に浸っていると、ふわりと甘い石鹸の香りが鼻孔をくすぐった。


「お前は、こんな夜でも花を愛でるのか」


いつの間にか、ひとり分ほど空いた距離で、ルイナードが、私の手元を覗き込んで微笑んでいた。

テーブル上にはすでに湯気の立つカップがふたつ。

でも、なぜだか、さっきのような距離を置く姿勢はもう感じない。花に夢中な私に呆れて、気分が削がれたのだろうか?


「花があれば、私はどこでもお世話をするわ。それをしたくて、城下街でも花屋さんのお手伝いをさせてもらったんだから」

「⋯⋯花屋が恋しいか?」


気遣わしげな声にふと考えてみると、そうでもない自分に軽く驚いた。


「⋯⋯確かにアンナさんたちには会いたいけれど、ここでも花のお世話はできるから、問題はないわ」

「お前は、変わらないな」


冷涼な目元が、クシャっと綻び、まるで愛おしむような眼差しが私に向けられる。

途端に、ドクンと心臓が大きく波打つ。

物憂げでありつつも、どこか甘やかすような笑顔。

大好きなこの笑顔に、私のすべてが、奪うかごとくもっていかれてしまった。

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