秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 
「花里さん、栄養士の資格持ってるんだよね」

 社内を案内してもらっているさなか、栗林さんが思い出したように言う。

 私の履歴書まで見てくれたんだ。

「はい。大学が食物栄養学科で、卒業してから取得しました」

 といっても今まで栄養士の資格が役立つ職場とのご縁はなかったので、ほとんど持っているだけに近かったのだけれど。もともとは身体が弱く病気がちだった母の役に立てば良いと思い、栄養学に興味を持った。

 母が入院する前、ふたりで暮らしていた頃は家事の中でもとくに料理は私が担当していたな。

 私は当時をしみじみ思い出した。

「すごいね。私は資格といえば普通運転免許くらいよ」

 そう言う栗林さんに、「私はそっちこそ苦手でペーパードライバーです……」と苦笑する。

 噴き出す栗林さんにつられ、私も笑う。栗林さんが笑い顔のままわざとらしく咳払いをした。
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