秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 私はおそるおそる横目に相良さんを見る。

 彼の洗い立ての艶やかな黒髪が揺れ、シャンプーの香りがほのかに漂う。途端に緊張の鼓動が高まってきて、私は静かに息を呑んだ。

 整髪剤が落とされたその髪は、仕事のときよりもさらさらと彼の顔や首筋にかかっている。さらにこうしてラフな恰好をしていると、お風呂上がりの相良さんは普段よりもいささか幼く見えた。

 朝はいつも完璧に用意をしてからリビングに現れる、この時間にしか見られない相良さんの貴重な姿。何度目にしても新鮮だな。

 唐突に、絹糸のような髪に触れたくなった。すると、ソファーの背もたれに頭を預けていた相良さんと視線が絡み合う。

「なに。天音も髪、乾かしたかった?」

 相良さんは、冗談めかして言った。私の全身がかあっと熱を持つ。くすぐったい思いがして逃げ出したくなるけれど、私は決まりの悪い顔で口を開いた。

「動物園、本当にいいんですか?」

 恵麻を寝かしつけながら、本当に相良さんにそこまでしてもらっていいのだろうかと考えていた。困惑を示す私に、相良さんがふっと眉を開いてうちとけた顔つきになる。
< 111 / 213 >

この作品をシェア

pagetop