秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 気づかなかった。あのときはただただショックで、呆然としながら服を着て慌てて部屋を出たから。

「……すれ違っていたんだな」

 夜のしじまに、相良さんの声が静かに響いた。

「さっきも言ったけど、あのあともどんなに捜しても見つからなくて、もう会えないと思っていた。だから社内で君と再会したときは死ぬほど嬉しかったよ。思わず駆け寄って、腕を掴んでしまったくらい」

 言い終えた彼は、悲痛に顔をゆがませる。今にも泣き出しそうなその表情に、私は胸がぎゅっと締めつけられた。

 全部勘違いだったんだ。あの夜も、再会してからも、やはり相良さんの言葉はすべて嘘じゃなかった。

「相良さんの忘れられない人って……」

「君に決まってる。最初に会ったあの日から、俺には君だけだ」

 視線を逸らさず、真摯に放たれる。彼の想いが胸に突き刺さり、目頭が熱くなった。
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