秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「すぐに戻るから待ってて」

「あっ」

 反射的に背中にかけた声は届かない。

 仕方なく大人しく待っていると、相良さんはリビングに入ってすぐ左側、ソファーの背面に位置するカウンターの奥へと消えていく。

 何度かカチャカチャと食器がぶつかるような高い音がして、しばらくするとほろ苦い香りが漂ってきた。

 マグカップふたつを手に戻ってきた相良さんが、その片方をこちらに差し出す。

「寒かっただろう。温まるといいんだけど」

「あ、ありがとうございます」

 マグカップを受け取ると、相良さんは私の隣に腰を落とした。

 マグカップの中には乳白色の泡が立っている。コーヒーの香りと甘いミルクの匂いが鼻を通り抜けた。
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