秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 相良さんの表情を(うかが)おうと彼のほうへ顔を向ける。彼は物悲しげに微笑んでいて、私の鼓動はひと際大きく跳ねた。

 マグカップを持つ指先に痛いほど力が入る。心が波立ち騒いで落ち着かなくなった。

 ここにくる間、車内でずっと考えていた。相良さんが私に優しくするのは、私にあの夜のことを言いふらされると困るからじゃないのか。それともあの夜の罪悪感からなのか、と。

 相良さんが私をなんとも思っていないなんてもう十分わかっていたはずなのに、こんな表情を見せられるとまた勘違いしそうになる。

 私は切なさに胸が突き上げられた。

 ……やはり私はこの人を忘れられていない。

 長年封じ込めていたはずの想いを簡単に実感させられた。

「あと、さっき君が言っていた家族ってなに?」

 唐突に突き詰められ、私の胸がどきりと音を立てる。
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