秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 やはり罪悪感だとか、真実を直接彼の口から聞かされるのが怖かった。

 仮にも子供の父親に、その事実を隠しながら一緒に生活するなんて。

 自分のせいとはいえ、あまりにも歪な関係性に混乱しすぎて頭がパンクしそうだった。

 ふう、と肩で息をする私は、八階でエレベーターを降りて総務部のオフィスへと向かう。

「花里さん」とうしろから声をかけられ、振り返ると、出社してきた栗林さんがこちらに駆け寄ってくるところだった。

「栗林さん、おはようございます」

「おはよう。今日も寒いね」

 大きなストールを口もとまで巻いた栗林さんは、唸りながら身体を小刻みに震わせている。

 私が「夜は氷点下になるらしいですよ」と告げると、栗林さんは「死ぬー」と顔からすべての表情を消した。思わずふふっと笑う私を横目に見た栗林さんが、思い出したように「そうだ」とつぶやく。
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