秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「おまけに一途だし」

「一途?」

 反射的に聞き返してしまった私に、栗林さんの目が待っていましたと言わんばかりに妖しく光る。ちょうどオフィスの前についてドアのバーハンドルに手をかけた栗林さんが、それを強く握って熱弁し始めた。

「噂だけど、ずっと忘れられない女性がいるらしいよ。以前取引先の人が副社長に縁談を持ってきて、副社長は断っていたんだけど相手もなかなか引かなくて。ついにはそう言ったんだって。それがどこからか噂になって、副社長ファンの女性社員たちは大騒ぎよ」

 言い終えた栗林さんが、「あ、私はただ見て癒されているだけだから」と付け加える。

 ……忘れられない人、か。相良さんにはずっと大切に思っている人がいたんだ。だからあの夜も、私が目を覚ます前にいなくなっていた。

 うつむき加減になる私を心配したのか、栗林さんが「花里さん?」と顔を覗き込んできた。私は慌てて顔を上げ、「すみません」と何事も無かったかのように笑顔で取り繕う。

 栗林さんは一瞬憂わしげな表情をこちらに向けていたけれど、私が「入りましょうか」と告げると、諦めたようにオフィスのドアを開けた。
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