その夢をどうしても叶えたくて
目を覚ますと、隣でなーせくんが居た。しかし、まだ推しが隣にいる事実に慣れない。
「おはよう、なーせくん」
小声で話しかけると、なーせくんは微笑んだ。でも、その赤い瞳の下に黒い隈が出来ていた。寝不足なのだろうか。
学校に到着し、教室に入った。クラスの人達は、友達同士仲良さそうだった。
しかし、私だけが一人で孤立していた。一人でスマホを構っているしか無かった。
体育の時間だった。グループを自分達で作るのだが、クラスのみんなは友達同士で出来ている。しかし、私は友達なんて居ないので、一人で突っ立っているしか無かった。
すると、強面な体育の先生がズカズカとこちらに来た。
「お前ボサっと立ってんじゃねぇよ!さっさとグループに入れ!やる気ねぇのか!?」
急に先生が私に怒鳴ってきた。いつもはそこまで怒らないクセに、何で今日なの?
「ああ、なるほど……お前には友達もいねぇから誰のグループにも入れねぇのか?ふざけんじゃねぇよ!さっさと行け!」
私が怒鳴られても、誰も手を差し伸べてくれない。ああ、私、嫌われているんだろうな。誰も私の存在なんか見えていないんだろうな。
ああ……死にたい。消えたい。死にたい。消えたい。死にたい。消えたい。死にたい。消えたい。死にたい。消えたい。
私はすぐに近くに居た子達のところに近寄った。
「あの……私も、入ってもいい……?」
「あっ、別にいいよ」
その子は苦笑いをして言った。とてつもなく雰囲気が悪くなってしまった。
私が場の空気を壊してしまったんだ。私が居るからダメなんだ。私の存在自体が良くないんだ。ああ……死にたい。
昼休み、決められた順番で先生と面談をすることになっている。今日、私にその順番が回って来たのだ。
私は先生に会議室に連れて行かれた。向かい合うように座った。
「貴方はさ、歌手になりたい教師になりたいって言うけど、どれも叶うのが難しいのよ。親が国公立に行けというなら、成績を上げないと到底無理です。もう少し現実を見た方がいいでしょう」
先生にボロクソに言われてしまった。私は肩を落としながら教室に戻った。
家に帰って自室に入ると、なーせくんが笑顔で手を振ってくれた。
推しが居る。それだけで幸せなはずなのに、現実はさらに残酷に私の心を削る。なーせくんが隣に居てくれて嬉しいはずなのに、何でこんなに泣きたくなるのだろうか。何でこんなに辛いのだろうか。
なーせくんは何かを察したのか、私の頭を優しく撫でてくれる。泣きたいけど堪えなきゃ。大好きな推しに心配させたくない。
なーせくんは私のメモ帳を取り出して何かを書き出した。
『レオンくんの家に遊びに行ってくるね』
「うん……いいよ。行ってらっしゃい」
なーせくんは私に笑顔を向けて、黒いオーラに包まれて消えて行った。
私はなーせくんが居なくなったことを良い事に、泣き出した。
私は何で生きているんだろう。私は普通の普通の人生を生きて行くために、夢を捨てなくちゃいけない。それなら、私は生きている心地なんてしない。夢を捨てるくらいなら、私も死んでしまった方がいいんだ。
死にたいなら死ねばいいのに、何で今もまだ息をしているのだろうか。
推しを推し続けるには生きるしかないって分かってる。でも、現実は厳しくて耐えられない。
“歌を歌いたい”……それは私の夢であり、生きる意味である。いや、“多くの人に認められること”こそが私の存在証明なのかもしれない。
でも、こんな私じゃ夢を叶えることも出来ない。だから、捨てるしかないんだ。この夢を一生ゴミ箱に入れて燃やし潰すんだ。そして、普通の人生を歩んでいくんだ。どんなに満たされなくても仕方ない。だって、夢を捨てるのだから。